火曜日の朝。
私はそらさんをとある駅まで送りに行きました。
そのとある駅からそらさんは特急列車に乗って、学校のある山梨県まで行くのです。
家からそのとある駅までの時間は約1時間30分弱。
私とそらさんはその時間、一緒に携帯のゲームをやったりおしゃべりをしたりして過ごしています。
普段の私は基本的にふざけているので、ずーーっとくだらないことを話してはケラケラと笑い転げています。(今この文字を打ったら『笑いこエロげています』となってびっくりした。←どうでもいい。)
そらさんも私と話している時は基本的にケラケラ笑い転げているのですが、たまーに「お、おう…」というような質問をしてきます。
私はその度に「お?…おおぅ…」と謎の声を心の中で出しながら、なるべく真剣に答えようと努めています。
この日もその「お?…おおぅ…うーむ…」の質問が突然やってきました。
「ねぇママ。哺乳瓶型になってるお茶とかジュースとか飲むやつ知ってる?」
その質問が出るまで、そらさんは私のおっぱいが小さいということをディスってふざけていたのですが(←藤山家あるあるの1つ。ぬふーーー!!!)、きっとそれ繋がりで思い出したのでしょう。
「え?哺乳瓶型のやつ?お茶とかジュースをそれで飲むの?大人が?」
「ん?うん。大人とか子供とか。流行ってるんだって。そらちゃんも欲しいんだ。」
私はそらさんがなぜそんなものを欲しがるのかわからず、「ふーん…」と少し聞き流そうとしました。
そんな私にそらさんはこんなことを言いました。
「なんかね、それで飲むと小顔になるらしいよ。ママはそういうの興味ある?ない?」
え?
え?
えーーー?!!!
小顔っ!!!
ほっぺたプニプニの8歳になりたてのあなたが?!!
小顔って言った??
私は一瞬頭がパニックになりました。
なのでそらさんの質問を聞き逃していました。
「ママ?ママは興味ある?ない?」
はっ!!
私が?小顔に?興味があるか?ないか?
ていうかその前にあなたはどうなのよ?!
「小顔…?そらちゃんはどうなの?なりたいの?小顔に。」
あなた8歳よ。
あなたのほっぺは天然のぷにぷになのよ。
天然ものなのよ。
「うーん。なりたい…かなぁ。で、ママは?」
「え?なりたいの?なんで?そのままでめっっっちゃ可愛いのにっ?!!そのまんっまでめっっっちゃ可愛いのに?!!」
全力で訴える私。
私はそらさんに日に何度も何度も「ほんとにそらちゃんは可愛いなぁ。」としつこく言うので、こういう言葉にそらさんは慣れっこです。
「え?だって…IちゃんもYちゃんも『小顔になって可愛くなりたい』って言ってるし…」
ぬほーーー!!!
小学校2年生にしてこれですかっ!!
もうそんな感じなのねぇ…
「で?ママは?小顔とか興味ある?」
あ、あぁそうか。
これがそらさんからの質問でしたね。
私は心の中で「お?…おおぅ…」と呟きながら、こんな風に答えました。
「うーん…まぁ興味がないことはないけど、別にどっちでもいいかなぁ。綺麗になりたいとか綺麗でいたいとかの気持ちはまぁあるけどさぁ。あ!ママね、すごいことに気付いちゃったんだよ。」
私は私が気付いたことをそらさんに伝えたくて大袈裟にそう言いました。
「え?なになに?」と聞くそらさんに私はさも大発見をしたような言い方でこう伝えました。
「あのね…一日のほとんどの時間は自分の顔を見ていないんだよ。知ってた??」
「え?あー…確かに…」
そらさんはちょっと目を見開いて「確かに…」と言いました。
「鏡で見ることはあるけどさ、それ以外の時間ずーーーっと見てないでしょ?それに誰かと話している時はその人の顔を見てるでしょ?一日のほとんどの時間自分の顔を見ていないのに、小顔になりたくて頑張ってるのってどうなんだろうねぇ。」
そらさんは腕を組んで「うーん」と言いました。
そしてちょっと強い口調でこう反論してきました。
「でもさ、IちゃんもYちゃんも『痩せなきゃなぁ』とか『小顔になって可愛くならなきゃなぁ』とか言うんだよ。そうしないと男子に好かれないんだって。それに『ブス』とか言われることもあるし…。だからそらちゃんももう少し痩せたいなぁと思ってるんだよぉ。」
あぁ…
そうかぁ…
私は過去にさんざんそこに惑わされてきました。
『人からどう見られるか』
『可愛くなきゃ愛されないんじゃないか』
『痩せる=美しい』
『美しくなきゃ愛されない』
あんたはそのままでじゅーーぶん可愛いんじゃボケーー!!
私はそらさんに自分と同じような過去を味合わせたくないと思ってしまう。
なのでこういう話しがでると、一瞬グッと身体が強張るのがわかるのです。
私はその強張りを確認しながら、私の内部で起こっているその緊張感を見逃さず、明るくこう言いました。
「痩せるとか痩せないとかじゃなくてさ、自分の身体が気持ちいいのが一番だと思わない?ママはそう思うんだけどなぁ。」
そして続けてこう言いました。
「そんな『ブス』とか言ってくる男子に好かれたい?そらちゃんの身体と心が気持ちいいのが一番じゃない?ママはそらちゃんはそのままで世界一可愛いと思うけどなぁ。ていうか誰っ!!そらちゃんを『ブス』とかいうヤツ!!ゆっるっせん!!!お前が人の顔を言える立場かっ!!ほんっとそういうの許せないんだよね!!ママがしばいたろか!てかしばくっ!!それでお前がいかにカッコ悪いことをしているかをこんこんと話したるわ!!そんでもってこうやってぐっちゃぐっちゃにして正座させて…」
↑途中から怒りで取り乱している私。(わざとよ。)
「あ…えと…ママ?しばくのは大丈夫だから…ね?そらちゃん傷ついてないから…ね?ママ?そらちゃんは大丈夫だからさ、ね?」
私をなだめるそらさん。(←藤山家あるある。しっかりものそらさん。)
「あぁ…つい興奮してしまいました。笑そうそう。だからさ、顔も身体も一日の大半自分で見てないんだよ。だから人目を気にして何かをするより『自分が心地よいか』のほうがずーーっと大切だと思わない?で、そらちゃんが自分で『これでいいんだ』って思ってたら最高じゃない?人がなんと言おうとさ。」
「うん。…確かに。」
「それにさ、『ブス』とか『デブ』とか言ってくるやつがいたら『あぁ、あなたはそう思ってるのね。私はそうは思いませんけど』って思ってたらいいし、『人にそういうことをいうあなたはスネ夫ですね』って思ってたらいいよねぇ。」
「うん。そらちゃんね『ブス』って言われても『ふーん。そう言いたいんだなぁ』って思って聞き流してるよ。」
「おお!!すごい!!それだよーー!!素晴らしい!!」
すごい!!
そらさんすごいぞ!!
それが言える8歳はなかなかいないぞ!!
そんな興奮している私に、8歳のそらさんが冷静にこう口にしました。
「ていうことはママは小顔に興味がなくはないけど、そんなに気にしてないってことだね?」
う…
ま…まとめやがった…
「お…?おおぅ…うん…そうだね…」
そらさんはそんな会話を私と交わして「ママ!お話しありがと!いってきまーす!!」と笑顔で特急列車の乗ったのでした。
やるな…あいつ…
情報操作ってすごいよね。
これは洗脳だ。
テレビや雑誌のもつ影響力はほんとにすごい。
痩せている=綺麗=愛される=幸せ
痩せていない=綺麗じゃない=愛されない=幸せじゃない
ほんっとに無意識に、無自覚に、こういうことが刷り込まれていくような気がしてね。
私だってこの『思い込み』が完全に解除されているわけではない。
そらさんに言った言葉はそのまんま自分に向かって言っているようなものだから。
これからもっとそういうことを気にし始めるであろうそらさん。
きっとこれは避けては通れない道なんでしょう。
お友達からの影響もこれからどんどん受けていくだろうしね。
痩せることだって、小顔になることだって、楽しんでやってくれたらいいな。
私みたいに苦しまなければいいな。
これも私のエゴだけれどね。
痩せることも小顔になることも、あなたの幸せとは関係ない。
これをずっと言い続けたいな。
私にできることなんてそれくらいのものだからね。
さて、明日はそらさんの学校で発表デーが行われます。
そらさんは今『劇団みなみ座』というクラスに所属しているのでお芝居をやるようです。
むふふ。
そらさんが舞台に立ってる所、みるんだー。
楽しみ。
読んでくださってありがとうございます!
ではまた。