先週の火曜日。
やっと梅を干すことができた。
5月の後半に梅酒と梅ジュースを漬け、梅干しの仕込みもした。
梅干しを作るのは生まれて初めてのこと。
一つ一つ丁寧に梅を焼酎で綺麗に拭き、梅のお尻にちょこんとついているヘタを
これまた一つ一つ丁寧に梅に傷をつけないように取り除く。
(亮一さんも手伝ってくれたの♡)
お塩のパーセンテージを決め(13パーセントにしてみた)、近所に住んでいる梅干し作り名人のおばさんに聞いていたようにお砂糖をほんのひとつまみ用意した。
梅とお塩とお砂糖ひとつまみを丁寧に重ねながら樽に入れていく。
梅酢が上がってくる2日間は気が気じゃなかった。
ここで梅酢がうまく上がってきてくれないとカビがはえやすくなるから。
ちゃんと梅酢が上がってきてくれてるのを見て、ほんとにホッとした。
梅雨明けを待ち、晴れが続きそうな日を選んで3日3晩外に干す。
近所の梅干し名人のおばさんが『この3日間は毎日ひやひやするのよー雨が降ったら大変だからねー!』と会う度に言っていた。
干してある梅に雨があたってしまったらどうなるんだろう?と思いながらも
何故か聞いていない。
というか、未だに知らない。笑
でも、何か大変なことになるんだろうなぁくらいは感じていた。
梅雨があけてから、今年は雨や曇りが続いた。
「いつになったら梅が干せるんだーー!」
何回亮一さんに言ったかわからん。
そんなこんなで先週。
やっと干すことができたのだ。
3日3晩、雨に降られることなく、無事に、そして綺麗に。
『梅仕事』
私はこの言葉の響きが好きだ。
「あぁ~…なんかいいなぁ~…」とじんわりする。
その『梅仕事』の前の週。
私は雅子という友人のダンスの発表会に足を運んでいた。
雅子とはもう10年弱の付き合いになる。
“友人”と書いたが、元々は私が店長をやっていたリラクゼーションサロンのスタッフだった。(雅子は今もそこのサロンの人気セラピストです。)
その時の私の状況は、初めての店長業、そのお店は新店舗、集まってきたスタッフたちはみんな“ド”素人たち(未経験者)ばかり。
その“ド”素人スタッフの技術(整体、リフレクソロジー、アロマトリートメント全て!)を教えていかなければならず、接客も教えていかなければならず、店のルールも作っていかなければならず…
それをほぼ一人でこなさなければいけない状況。
もうカオスだった。
そんな中、雅子だけはその新店舗配属の3か月前?から他の店舗で経験していた唯一のスタッフだった。
お店が始まるまで私の中では頼りにしまくりだった。
が…
いざお店がオープンしてみると、一見頼りになりそうな見た目とは裏腹な奴だった。
いつもおどおどビクビクしている。
『え…私には無理ですよ…』とかすぐ言う。
恐そうなお客さんが来るとビクついて私に『…担当変わってもらえませんか?…』
とかも言う。(私は絶対変わらない。笑)
当時の私はどのスタッフに対してももんのすごく真剣で、絶対に色んなことが出来るようにしてみせる!!とか、みんなの本質を表にどんどん出していってもらうんだ!!とかをかなり熱く思っていた。(と思う。)
ゆえにすんごく厳しい言い方を色々していた。(らしい。)
雅子はいつも何かにビクついて、すごく声も小さい女だった。
そして、いつもいい子ちゃんだった。
周りのスタッフにはとても好かれていて、そして未経験のスタッフから頼りにされてたりした。見た目のせいと年のせいと少しの経験があったから。
(あ、雅子は私より年上なんですけどね。私はとても失礼な奴なので年齢は気にしません。)
いつもビクついて、自信なさげなくせに、周りの反応に一生懸命合わせようとしていた。
年上で少しだけ経験があって見た目も柔らかい母性を感じさせるような女性だから。
一生懸命人の悩みを聞いたり、一緒に考えたりしてあげてたけど、私にはその行為はとても不自然にみえた。
絶対に雅子はそんな奴じゃない!ってことがわかっていたからだ。
雅子の本質はそんなんじゃない!と根拠がない自信満々でそう感じていた。
「あのさ、雅子はほんとはそんなんじゃないっしょ?なにビクついてんの?
そんでなんでそんなに周りの反応に自分を合わせようとしてんの?
あのさー、雅子ほんとはもっとふてぶてしくてもっとブラックな面あるでしょ?」
私は多分こんなことを言っていたと思う。
「ブラックな面があるって指摘されたの初めてです。そうなんです。私、ほんとは悪いやつなんです!」
そんなことを言いながら、雅子は私としゃべってるときによく泣いたりしていた。
私が感じていた雅子の本質は、無邪気で素直でふてぶてしくて(いい意味でね)
人の世話なんか焼いてられないほど、自分がやりたい!と思ったことにどんどんと取り組んでいってしまうような奴だった。
私が店長をしていた期間は3年間だけ。
そらさんを妊娠して、辞めた。
その3年間はとても濃密で、雅子とも他のスタッフともとても濃い時間を過ごした。
お店の売り上げを上げよう!どうやったらお店の売り上げがあがるか?
どういう宣伝をしたらお客さんがたくさん来てくれるか?
どんなサービスを提供したら新規のお客さんが来てくれるか?
なんてコトを…
…ちっとも考えなかった。
どうすればお店の娘たちが楽しく働けるか?
どの技術を身に着けてもらおうか?
お店の娘一人一人の長所を生かすにはどうしたらいいか?
スタッフがお互いを認め合えるようにするには何を提案していけばいいか?
とにかくお店の娘たちが、切磋琢磨しつつも、お互いを尊重し、みんなが居心地が良い店を作ることをずーっと考えていた。
なので、必然的にスタッフ一人一人と話す時間が長くなる。
話しの内容もどんどん深くなる。
心の闇を話して泣く子もたくさんいた。
そして、雅子もどんどんと私に話をしてくれて、どんどんと何かが解放されていくように感じた。
私がお店を辞めてからもその当時のスタッフとの関係は続いている。ありがたい。
雅子ともちょくちょく会ってはまた泣いたり(雅子がね)、たくさん話をしたり、家にゴハンを食べに来てくれたり。
そんな感じで付き合いは続いていた。
今現在。
雅子は出会った当時とはまるで変わった。
素敵な人と結婚もして、当時悩みに悩んでいた家族との関係性も前よりはかなり良好になった。
なかなか子供に恵まれず、ほんとにしんどい期間もあったけれど、いろんなことを吹っ切っていった。
「子供ができれば“幸せ”だって思ってたところがあったみたいです。」
彼女はいつの間にか『“幸せ”は自分の“外側”にはない』ということに気付いていたのだ。
そんな雅子が、昔ずーっと続けていて、でも辞めてしまっていたダンスを再開した。
「自分がやりたい!と思ったこと、やってみようって思って!」
生き生きとした笑顔でそういう彼女。
痩せてスッキリとした。
そして無邪気な子供のような表情。
すごく嬉しかった。
そんな雅子が最近一緒に飲んだ時に、恥ずかしそうにこんなことを言った。
「あのぉ…ダンスの発表会が今度あるんです。えっと…もし、もしも暇で、もしも行ってもいいかなぁ~と思ったら来てください。(*ノωノ)」
私はすぐに
「おー!行こっかなー」
と応えていた。
発表会当日。
武蔵小杉の駅からすぐの会館が会場だ。
が。
何を勘違いしたのか、私は『元住吉』の駅に降り立った。
なんの疑いもなく。
その会館までの道のりを経路検索すると『徒歩17分』とでた。
「割と遠いんだなぁ…」
と呟きながら会館を目指す。
会館までの17分。
歩きながら雅子のことを考える。
だいぶ変わったなぁ…。
あいつ、だいぶ変わったよなぁ…。
今日、どんな雅子が見られるか楽しみだなぁ。
そんなことを考えながら歩いていたその時。
あっ!!
そーかっ!!
私の目が急に大きくなる。
はぁ~…
そうだったのか…
すごく腑に落ちる言葉が浮かんだ。
『人は“変わる”じゃなくて“元に戻る”んだ。』
雅子は『変わった』んじゃなく、元の雅子に『戻った』んだ。
いろんなワクや観念や刷り込みや…もう不必要になったものをひっぺがして、放り投げて、手放して、、、
シンプルな『もともとの雅子』に戻ったんだ。
あー…
きっとみんなそうなんだ…
「そっか…そうだよねぇ…そうだそうだ…」
一人ブツブツと呟きながら歩く。私。は、怪しい。
会場に着き、先に来ていた友人とお話しする。
「楽しみだねー!」
いよいよ雅子の出番だ。
雅子のダンスをみるのはこれ初めて。
一曲目。
想像以上に上手い!!
恰好良い!!
すごく存在感がある!!
そんな感想。
「雅子すごいかっこいいねー!うまいねー!」
友人とそんな会話。
二曲目。
↓
↓
↓
↓
↓
↓
気付いたら…
号泣
雅子が踊っている最中、後から後から涙がでてくる。
もう自分でもびっくりなくらい。
まったく泣くなんて予想もしてなかった。
舞台に立っている雅子は、堂々としていて、とても、ほんとにとても楽しそうで、
ありきたりな言葉だけれどもキラキラしていて、そしてとっても無邪気だった。
ふと斜め後ろの席を見ると、雅子の旦那さん、お母さん、お姉さん、姪っ子さんが並んで座って雅子の姿をジッと見ていた。
その光景にも涙が止まらなくなった。
号泣しながら見た雅子のダンスが終わり、隣の友人に目をやる。
ぶっ!!
隣でも号泣だった。笑
梅を丁寧に扱う。
梅酒を漬ける。
梅ジュースを漬ける。
梅干しを作る。
『梅仕事』は丁寧さが大事だ。
そして出来上がるまで『待つ』ものだ。
私は過去ひどい摂食障害で、毎日が地獄のようだった。
部屋の片付けもできないし、一人じゃまともにゴハンも食べられない。
頭の中はいつも忙しく、不安や絶望でいっぱいだった。
人を信じることもできず、自分のことが大嫌い。
いっそ死んでしまおうか?と思ったことが何度もある。
そんな過去がある私が梅干しを作った。
『梅仕事』を楽しくしている自分。
「…考えられないなぁ。」
梅を丁寧に干しながら、何度もそう言っていた。
私はもう不必要になったあらゆることをどんどんと捨て去り、剥ぎ取り(これめっちゃ痛い笑)、手放し、執着をあきらめ、悶絶しながらも思い込みをやめ、掴めるものなんてなにもないことを知り、、、
元に戻っていっている。
長くなっちゃった。
読んでくださってありがとう。