藤山家においでよ

横浜のパワースポットと化した藤山家。施術、お料理、お話し会などを通じて『幸せに生きる』を実験、研究しています。

私のコト 80

おおっ!!

 

もう80回目です!!

 

いーつーまーでー

 

…続くんですかね。

 

読んでくださってるみなさん。

 

ほんとにほんとにありがとうございます!!

少しでも楽しんで頂けてたら本望です!!

 

ではさっそく続きです!

 

前回はこちら↓

私のコト 79 - 藤山家においでよ

 

 

 

りおママの店に、ミナミでも老舗の超有名高級クラブのママ『由紀ママ』を連れてくると迎えに行ったTさん。

りおママに『絶対に味方につけておいたほうが良い相手だ。』と言われ、ますます緊張が増す小娘ゆっきぃ。

Tさんを待ってる時間にもほかのお客さんの接客はもちろんしなくてはならず、上の空でお客さんの席に着く。

 

長い。

 

待ってる時間がやたらと長く感じる。

 

りおママは「“こっち”のバックもたくさんついてるから…」と人差し指でほっぺに傷をつける仕草をした。

 

昔からミナミでクラブを構えているんだから、それは当然のことだと思う。

 

私はりおママのその仕草を見ても、話を聞いても、特に“恐れ”は感じていなかった。

 

滋賀県雄琴でしていた仕事はそんな話がしょっちゅうあったし、もっと露骨につながりのある世界にいたのだから。

 

私がこんなに緊張していて、“恐れて”いるのは…

 

『貴女は高級クラブで務められる人ではない』

『貴女はそんな器量ではない』

『貴女みたいな人は高級クラブでは受け入れられない』

 

と言われてしまうんじゃないか。という『恐れ』だ。

 

綺麗でもない、スタイルが良いわけでもない。

そんな私が受け入れられるのか?

 

受け入れられなかったら

「やっぱり私はそういう程度の人間だったんだ…」

と、すごく絶望するのだろう。

 

そして「やりたい!」と思っているコトが叶わないということが

ほんとに『ある』んだということを思い知るのだ。

 

それが一番恐いんだ。

 

でも…

 

一方で、いつもこういう時に感じる感情がまた湧いてくる。

 

とことんまで『絶望』するのもいいかも…と。

 

受け入れられたらそりゃ嬉しいだろう。

そしてそれを望んでる。

 

でも…

 

受け入れられなかったら『私』は実際どんな感情が湧くだろう?

どこが痛くなるんだろう?

どれだけ悔しがるんだろう?

 

そんな、自分への好奇心みたいなものも同時に生まれてくる。

 

 

そんなことを思いながら上の空で接客をしている時、店のドアが開いた。

 

「いらっしゃいませ。」

 

りおママが立ち上がり、満面の笑みを浮かべた。

 

「いらっしゃいませ。」

 

りおママについで、そう言いながらドアの方を振り返る。

 

 

「おー!連れてきたでー。」

 

大きな声でそう言いながらお店に入ってきたTさんの後ろに

一人の女性の姿。

 

「あらぁ~あ!!由紀ママぁ~!お忙しいとこほんまにすいません~!!」

 

りおママがいつもよりワントーン高い声で挨拶をしている。

 

…あれが由紀ママか…

 

ドキドキしながら由紀ママの方をジッと見た。

 

白いシャツに真っ赤な上下のスーツ。

ひざ丈のタイトスカート。

ジャケットの襟を適度に立てている。

髪は綺麗にまとめて、お化粧は上品にしている。

年の頃は…

多分50代後半かもしくは60代、もしかしたら60代半ば以降なのかもしれない。

パッチリとした目元。

若いころはアイドルの様な顔だったんだろうなぁと思わせる、可愛らしい顔だちだ。

 

そして

 

なんだかすごく存在感のある女性だ。

 

「りおちゃん。お店になかなかこられなくてごめんやで。

ええ店やないの。おめでとうな。」

 

ハスキーな落ち着いた声で由紀ママは言った。

 

「いやぁ~!!由紀ママにいらしてもらえるなんて!ほんまにありがとうございます!!お忙しいでしょうけどちょっと飲んで行ってくださいねぇ!!」

 

りおママはずっと声が上ずっていた。

ものすごく緊張しているのがわかる。

 

「ゆきえさん呼んでやー。」

 

Tさんがりおママに言っている声が聞こえる。

 

ドキドキドキ…

 

ボーイさんが私を呼びにくる。

 

「すいません。失礼しますねー。また呼んでくださーい!」

 

席に着いていたお客さんにご挨拶をして、コップに入っていた水割りをグイッと飲み干す。

 

いよいよだ。

 

由紀ママのいる席にゆっくりと近づく。

 

「失礼します。いらっしゃいませ。ゆきえです。」

 

なるべく落ち着いた態度でにこやかに…出来た…はず。

 

「おー!ゆきえさーん!待ってたでー!こっち由紀ママ。

由紀ママ!こちらゆきえさん。」

 

Tさんはハイテンションで紹介してくれた。

 

「はじめまして。よろしくお願いいたします。」

 

由紀ママは扇子で自分を仰ぎながら私をジッと見た。

 

ドキドキドキ…

 

ほんの数秒のことなのにすごく時間が長く感じられた。

 

「この子がゆきえちゃん?はじめまして。Tちゃんからいっつも話し聞いてたわぁ。」

「はい!ゆきえです。そうなんですか?どんな話ししてたんですかねぇ。Tさん!悪口言ってたんやないんですかぁ?」

「わはははは!俺がゆきえさんの悪口言うわけないやろー!」

「どうやろなぁー?!いつも悪口言うやないですかぁーあははは!」

 

どういう態度をしたらいいのかわからなくて、いつも通りふざけてみるしかなかった。

 

「なぁ?りお!俺はゆきえさんの悪口なんて言ったことないやんな?」

 

Tさんがりおママに振った。

 

「そーやでぇー!!由紀ママ、聞いてくださいよ!Tちゃんってばいっつも

『ゆきえさんゆきえさん』言うて!こんなんちゃいましたよねぇー?」

 

「んふふふ。そやなぁ。私にもゆきえちゃんの話しよくしてくるわ。

ええ子やねんでっていつも言うてるで。ゆきえちゃん。」

 

「えー!ほんまですか?そんなことも言えるんですねぇー!Tさんったら!」

「なんやそれは!俺はいっつもゆきえさんを褒めとるんやでー!」

「へー!ありがとーござーますー♪」

「わはははは!」

「あはははは!」

 

なんだかいつものふざけあいっこになってる…

こんなんで大丈夫なんだろうか…

 

「でもねー、ゆきえちゃんがほんまに頑張ってくれてるんですよぉ。

いつも私のこと助けてくれてるんです。ゆきえちゃんが来てくれなかったら

お店大変なことになってたと思うんやわぁ。」

 

りおママが急にしみじみとそんなことを言い始めた。

 

「そやろ?!りおはもうトウが立ちすぎてるからなぁ!ゆきえさんみたいな若い子がおらんとな!!わはははは!」

 

りおママがせっかく私のことを褒めてくれてるのに!

Tさんがまたチャチャを入れた。

 

「なんやのぉ~?!せっかくエエ話ししてるのに!由紀ママ~どう思いますぅ?」

「んふふふふ。」

 

由紀ママは扇子で口元を隠して上品に笑っていた。

 

「もうりおはええわ!もう違う席いけやー!もう若いゆきえちゃんだけでええから!はよ行って!他のお客さんのとこ行かなきゃ変やろ?」

 

Tさんがふざけながらりおママを席から外そうとしている。

私と由紀ママと三人で話したいんだ。

 

「なんやのぉ~?!あーそーですか!わかりましたよぉ~!

由紀ママ。ほんまにありがとうございます。よかったらゆっくりしていってくださいね。」

 

りおママがきっちりと挨拶をしている。

 

「りおちゃん。忙しいのにありがとね。がんばってや。」

 

由紀ママも落ち着いたトーンで労いの言葉をかける。

 

ママ同士上辺だけの言葉かもしれない。

でも、そこには何か『ママ同士』にしか出せない空気感のようなものがあり、私はその光景をみて少しゾクゾクした。

 

「さて!りおもいなくなったことだし!ゆっくり話そうやー!」

 

もうあまり緊張していない。

由紀ママが私をどう見ようが、私はこのままで正直にいこうと思っていた。

そして、そんな私を由紀ママはきっとほほえましく見てくれるんじゃないか?となんとなく感じていた。

クラブで働けるかどうかは別として。

 

「ゆきえちゃん。このお店はどうなん?」

 

由紀ママがいきなり質問してきた。

 

「はい。りおママにとても良くして頂いてます。お客さんにも可愛がって頂いていて、とても居心地がいいです。」

 

「ふーん…そうやのぉ…。で?クラブでも働いてみたいの?」

 

由紀ママは少し上目遣いで私をみながらそう言った。

私のことをじっくり見てる目だ。

 

「はぁ…い。えっと…そうですね。正直私なんかが務まるのかなぁという思いはあります。でも、高級クラブというところがどんなところなのか、そこで働くってことはどういうことなのか、知りたくてたまらないんです。

どんな素敵な女性が働いてらっしゃるのか、どんなお客様がいらっしゃるのか。

そして私が高級クラブで働くことができたらどれだけお店に貢献できるのか、

そんなことが知りたくてしょうがないんです。」

 

…こんなに正直に話してしまっていいのだろうか?…

 

言い終わってからすぐにそんな思いにかられた。

 

もっと『月に○百万稼ぎたいんです!』とか、『ナンバーワンホステスになりたいんです!』とか『ミナミで一番になりたいんです!』とか、

 

そんな答えの方がよかったんじゃないだろうか…

 

さっきの私の答えじゃ、全くやる気が感じられないじゃないかーー!!

 

少し『やっちまった感』を感じていたその時。

 

 

「そう。Tちゃん。エエ子やないの。」

 

由紀ママがTさんにそう言っていた。

 

「そやろ?ゆきえさん、エエ子やねんて。言うたやろ?」

 

由紀ママが私を『エエ子』やと言ってくれた!

嬉しい!!

正直ほんとに嬉しい!!

 

「ゆきえちゃん。今度ゆっくりお話ししましょう。ええ?」

 

由紀ママが真剣な表情で私聞いた。

 

「はい!もちろんです!!」

「そう。なら詳しい日にちはTちゃんに伝えるわ。それでええ?」

「はははははい!よろしくお願いします!」

「りおちゃんには私と会うこと、まだ言わん方がええからな。

わかるやんな?」

「はい。わかりました。」

 

由紀ママはりおママの方をチラッと見て小声で言った。

 

「ほなTちゃん。私お店戻るわ。」

「おう!送るわ!」

「あら。ありがとう。ゆきえちゃん、またな。」

「はい!ありがとうございました!」

 

由紀ママが立ち上がるとりおママがすっとんできた。

 

「ママ!もうお帰りですか?」

「もうお店戻らなあかんねん。また来るわ。ありがとう。」

「またいらしてください!お送りします。」

 

由紀ママとTさんをりおママと私で下までお見送りにいく。

 

「ありがとうございました!」

「ありがとうございました!」

 

由紀ママとTさんの姿が見えなくなるまで、宗右衛門町の通りでお見送りを続ける。

 

お見送りを続けながらりおママが私に話しかける。

 

「ゆきえちゃん。なんでTちゃんは今日由紀ママを連れてきたん?」

 

ドキッ!!

 

私に会わせるためだなんて絶対に言えない。

 

あれ?

でも、りおママが私にそんなことをわざわざ聞くのはおかしい。

りおママはTさんに『由紀ママを連れてきて!』とずっとお願いしていたはずなんだから。

 

「え?りおママがTさんに由紀ママを連れてきて欲しいってお願いしてたんやないんですか?」

 

私はとぼけながらそう言ってみた。

 

「そぅ…やね。そやったそやった。」

 

ママはひきつった笑顔で答えた。

 

そしてその後にこうつぶやいた。

 

「ゆきえちゃん。…店…辞める気やないの?」

 

 

 

さてさて!

どう答える?

 

つーづーくー!